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多部未華子/「変えてやる」

ソフトバンク「はじめよう!Google Play Musicキャンペーン」CM 「変えてやる」篇

 2016/01 SoftBank(テレビCM)


テレビCMがその固有フォーマットの律格である時間的リミテーションの中で、著しく縮約された日常の断片を描くとき、視聴者は見えない後景を自ら補足し、あるいは呈出された場面に無意識下で身近な事象を投影する。映し出される映像がひときわ感情に訴えるものであるならば、登場人物に己の過ぎ越し方を反芻することになるだろう。


ソフトバンクのキャンペーンCM「変えてやる」篇は、舗道を徒行する女優・多部未華子の看視に専心した、ほぼワンシチュエーションの小片でありながら、追懐を綴った楽曲(天才バンド:「ダラダラ」)と多部自身によるヴォイスオーバーを伴い、誰もが味わう失恋の苦患を素描することで、ことさら胸中の琴線に触れ、一瞬で見る者の涙腺をも刺激する精良な所産である。

「彼氏と別れた。」

「番号を変えた。」「ファッションも変えた。」

「ベッドだって、布団に変えてやる。」

「音楽の趣味だって、変えてやるんだ。」

「本当はロックが聴きたかった。」  「あいつの趣味なんてどうでもいい。」





CM冒頭部、携帯ショップから退店してくる多部のバストショット。

「彼氏と別れた。」の声が重ねられるものの、彼女の表情はことのほか晴れやかだ。


ショップを出ると、早々にスマートフォンに収められている音楽を聴き始める。液晶に並ぶ楽曲のライブラリは既に「あいつの趣味」から離れ、自身の嗜好が反映されたものなのだろう。再生された曲は彼女の内耳への伝搬のみならず、そのままCM本編のBGMとして機能し、視聴者が主人公に自らを投射するための融合装置となる。


歩きながら彼との笧の放棄を心中で宣するものの、ヘッドフォンを通して響く自選した楽曲の歌詞は、彼女の心覚えをあまりにも刺突するものであったろう。思わす歩をとめ舗道に立ち止まる彼女。異変に気づいた傍らを歩くカップルがそれを見返る。


 いつか 君と 行った海は_

 いつか 君と 走り抜けた道を_  いつか 君と 見てた夢を_


恋着、諦念、肯定・・

嗚咽しそうになるも辛うじて耐え、ひとすじ落涙したのち笑みともとれる表情でCMは終わる。

CM終末の8秒間、様々な想いが交錯するかのように変転する、彼女のクローズアップショットは妙妙たるものがある。




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