碧しの/U30 部下の嫁(5) − 発覚 −
「性欲盛りなU30歳の部下の嫁に手を出した俺」 2015/07/23発売 アキノリ(DVD/配信)
食事を終え、マツモト夫人が持参した手作り菓子を皆で食するシーンでは、ふたたびシノによる“官能的な摂食行動”が描出される。前出の串団子ほどの過剰さこそないものの、菓子をひと囓りするだけの動態としては少なからぬ誇張がみえ、先のシーンと同様の指示が監督から出されているものと思われる。その形状からして直接的な性的隠喩とはなり難い円形焼き菓子の噛砕行為のみで、ただならぬエロティシズムを醸す碧しのの艶技には瞠目すべきものがある。
今回はマツモトの姿を手前にアウトフォーカスした構図となっていて、彼の視点として描かれている。画面右手前のマツモトは自身の動作を止め、シノの摂食動作、一挙一動に見入っているようである。同シーンは直後に構図を変え、手前にマツモト夫妻を配した正面からのニーショットでシノの摂食動作が再演されるが、このときのシノの挙動はごく自然なものである。敢えて無為な客観視点ショットを後続して再提示することで、直前のマツモト視点による誇張と歪曲にみちた情景との対比がなされ、彼女に対する彼の深い執心・念望を顕現する。
“誇張された摂食シーン”は食物を変えて再演される
物語中盤、カメラはシノの可憐な挙動を追うことに注力する 終始慎ましやかな若妻の振る舞いである
マツモト夫人が時刻を確認しアオイ家を辞す(来訪時当初からシノに告げていた実家への立ち寄りが理由である)ことで、マツモトにとっての好機が訪れる。
夫人の退場でシノは話相手を失いやや手持ち無沙汰な様子である。そんなシノの傍らでは、夫人の退出を待っていたかのようにアオイに酒を勧めるマツモトの声が響いている。
マツモトからすれば、妻の会食中座は事前に本人から伝えられていた事柄であろうし、一方で過去に重ねた酒席機会でアオイの飲酒許容量を熟知していたとも考えられる。これらの事象を思量すれば、この日の会食決定時点で、彼の胸中にはアオイを酔い潰すことによってシノを甘言で釣る邪心が朧気ながらも潜んでいたと思われる。
とっぷりと暮れた夜の情景がインサートカットとして挿入され、舞台の時間経過が告達される。既に卓上の食器は片付けられ食後の歓談の場へと移行している。先述した菓子を食する場面では、まだ食器は卓上に残されているものの料理はおおむね食べ終えられていたりと、消え物や小道具の移動で一連の会食過程をつぶさに詳述している。些末事とはいえ、場面移行に用いられるインサートカットや舞台装置の僅かな変化の提示など、映像の細部まで行き届いたアキノリ作品の配慮・演出は見事である。
男2人はビールを相変わらず飲み交わしているが、シノが手にするのはマグカップであることから彼女の飲み物はアルコールではないのだろう。先刻まではしきりに酒を勧めていたマツモトだが、アオイの酩酊ぶりを悟ると、しかし口先だけはアオイを気遣うような言葉をかける。
マツモトがトイレに立つと、シノは夫の過剰な飲酒を咎めるが、アオイは虚勢を張るもののそのままテーブルに突っ伏し寝入ってしまう。一方トイレでは用を足したマツモトが傍らのサニタリーボックスに目をやり、そこに隠されているローターを発見、手にとってひとりほくそ笑む。
思いがけないシノの性嗜好の発見により、婉曲的な奸策を弄することなく彼女への威迫が実現可能となったことへの会心の笑みである。
マツモト夫人が退席し、夫は酔いつぶれる 一方マツモトはトイレに隠されたローターを発見する