上白石萌歌/「あいたいって、」
「キリン 午後の紅茶 冬の限定CM『あいたいって、あたためたいだ。』篇」
2016/12 キリンビバレッジ株式会社(テレビCM)
見る者を心暖め、あるいは映像からの期せぬ情趣的刺激によって、個々に潜在するノスタルジーを誘起させ得る、僅か60秒に収められた簡素なストーリー。ソフトドリンクCM「午後の紅茶 冬の限定CM『あいたいって、あたためたいだ。』篇」は、青春期にある日常の一齣を巧緻に切り取り、異性への傾慕や旧里に寄せる郷愁といった、刹那的でありながらも清涼なる心緒を、視聴者自らの記憶への投影・追懐へと嚮導する優れた掌編である。
閑散とした田舎町の駅ホーム。ひとり佇む少女はヘッドホンから届く音楽に身を委ね自らもそれを口ずさむ。曲の高まりに併せて場景にフェードインしてくる〈本来ならば彼女以外には聞こえるはずのない〉伴奏の急速な音量上昇は、少女の楽曲への深い耽溺を顕し、やがて目を閉じ高らかに歌唱する彼女は、待ち設けていたであろう気動車の到着にも微動だにしない。邂逅あるいは合意による待ち合わせか、男子学生が到着車両から下車し、朗唱に耽る彼女を見いだす。彼が買い求めた自販機飲料のボトルが取出口に到達する際の落下音によって、ようやく彼女は我に返る。驚きから安堵へと変わる一瞬間の表情の移ろいが印象的だ。CMの終尾、二人寄り添い歩くカットでは夕景となり、場面は一転して暖色に染まる。出会えることで、心がぬくもりで満たされる。
演ずる上白石萌歌は、2011年デビュー。モデル・女優として、姉の上白石萌歌とともに映画や舞台、CMと多方面で活躍している。CM使用曲「やさしい気持ち」(1997年リリース)は、オリジナルがアーティストの独特なデフォルマシオン的歌唱法によって造出される独特な個性を持つものだけに、楽曲の詩句は本CMで披露される歌唱の方が直覚的だ。歌詞の根幹をなすのものは想いを寄せる相手に対しての一途な思慕であろうか。解釈に依っては身侭な悵恨とも取れるフレーズも散見され、そのワーディングは深奥で難解だ。